第1回 人の役に立ちたいinカンボジア 古谷恵一


「わたし、千代とカンボジアに行ってくる。」
2010年1月、古川のおばちゃんから突然こんなメールが来た。とにかく驚いた。それで、よくよく事情を聞いてみると、去年の追悼式で、僕が「古川をカンボジアに連れて行く」と言ったことが頭に残っていたという。「スーダンにはいつか行く。だけど、まだ行く勇気がない。ただ、カンボジアに行ってみたら、和幸が途上国の子どもたちのために働いているところが良くイメージ出来るかも。そして、和幸の代わりに、和幸がしたかった国際貢献をしてみたい」。これが、おばちゃんと、古川の妹である千代がカンボジア行きを決意した理由だ。もちろん、僕も一緒に行くことにする。
カンボジアでは、古川の遺品である洋服や、「共に歩こうファミリー」から集まったぬいぐるみ、文具、お菓子などを配ってまわることになった。おばちゃんは古川の洋服をずっと捨てられなかったらしいけど「カンボジアの子どもたちが喜んでくれるなら」とそれらを手放す決意をした。
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カンボジアでの滞在は約4日。2009年夏に行ったフィールドワークで僕が知り合った、西さん、Bornさん、トゥクトゥクドライバーのビチェットらにお世話になることにした。西さんたちは、シェムリアップの日本法人で働きながら、週末になると近郊の村々を訪れ、古着や医療品を配ってまわっている、とても気持ちの優しい人たちだ。ついでに、とても面倒見がいい。渡航前、「こういう事情だからぜひ助けてほしい!!」と突然お願いしたのに、快諾してくれ、滞在中ほとんど毎日僕たちのわがままにつきあってくれた。
カンボジア写真3  日本から持ってきた、段ボールにしておよそ4、5箱にもなる古着たちをビチェットのトゥクトゥクに無理やり乗せ、シェムリアップ郊外の村に向かった。古着やお菓子を子どもたちに配り始める。そこら中から裸、裸足の子どもたちが現れる。僕たちの贈り物をとても喜んでくれているのが分かった。おばちゃんは涙を流しながら、「みんな、和幸の洋服を着て、元気に育ってね。和幸の生きたかった人生を生きてね」と子どもたちに洋服を着せている。それを見ながら僕は、「おばちゃん、僕たち少しでも人の役に立ってるんやない?来て良かったねえ。」と心の中でつぶやいていた。

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おばちゃんと千代は日本にいるとき、ロシナンテスの川原尚行先生から、「ぜひ、『行列のできる法律相談所』が建てた小学校にも行ってみてください」と言われていた。渡航前はほとんど情報収集ができておらず、実現は難しいと思っていたが、ビチェットが頑張ってくれ、訪問できることになった。
シェムリアップから車で片道約2時間のところにその小学校はあった。事前に購入してあったお菓子やインスタント麺を配る。子どもたちは、きちんと整列し、順番にお菓子を受け取る。ずるをして2つ目のお菓子をもらおうという子はいない。みんなお菓子を受け取るときちんとお辞儀をし、「オークン(ありがとう)」と胸の前で手を合わせる。おばちゃんも千代も僕も汗だくになり、どろんこになって、サッカーや縄跳びで遊ぶ。おばちゃんはここでも号泣。
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それから、これは絶対忘れちゃいけないことだけど、カンボジアではとてもすてきな日本人と出会った。たまたま訪れた地雷博物館でボランティアをしていた女性、まあちさんだ。とにかく体全体からきらきらとした“ステキ”オーラが出てて、僕たち3人は一瞬でファンになった。僕の表現力が乏しくて、まあちさんの人柄をここで十分に説明できないのが辛い。とても感受性が豊かで、おばちゃんが古川の話をすると涙を流して真剣に聞いてくれた。ぜひ古川の写真が欲しい、部屋に飾りたい、と言ってくれる、不思議な人だ。今ではもう立派な「共に歩こうファミリー」の一員になってくれている。ありがとうございます、まあちさん。
 最後にちょっとだけ。「国際貢献だ!!」とか大それたことはとても言えない。だけど、困ってる人がいたら、その人の役に少しでも立てれば、と思う気持ちは誰にでもあると思う。今回は「たまたま」その舞台がカンボジアだった。きっかけは「たまたま」だったカンボジアプロジェクトだけど、これからもぜひカンボジアには行き続けたいと個人的には思う。まあ、舞台はどこでもいいのかもしれないけど。どんな形であれ人の役に立ちたい。それが僕たち「共に歩こうファミリー」の願いです。きれいごとだって文句言われてもしょうがない。だけど、自分の命が危ないって時にさえ人のことを全力で心配し、役に立とうとしたのが古川和幸っていう人間だった。古川が「生きたい」と思っても生きられなかった今日を生きる人間として、ほんの少しでも周りの人を笑顔にできれば、そう強く思う。

文:古谷恵一

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